切る、混ぜる、火にかける。
手を動かす行為から、まちとの関係ははじまる。
福井県内を中心に料理教室やケータリングを行い、
福井の食の魅力を伝えているくらはしあいさん。
これまでに様々な地域の食材と福井の食材を掛け合わせ、
新しいかたちの料理を生み出してきました。
そのアイデアの源について、お話を伺いました。

くらはしあい
料理家。福井県在住。
出張料理教室やケータリング、イベントを中心に活動し、
福井の食材や旬を生かしたメニュー開発、監修、レシピ提供を行う。
ランチの提供や食体験の企画も手がける。
インスタグラム
蟹解禁・半夏生・食が四季の共通言語になるまち
——福井の食文化について、どんな印象を持っていますか?
くらはし:「ひと言でいうと、地味な豊かさです(笑)
へしこ、打ち豆、お漬物、干し芋。派手さはないけれど、
家で手づくりされてきた保存食や発酵食品が福井県には多いんです。
厳しい冬を越すための知恵が、そのまま味になって残っている印象があります。」

——保存食や発酵が多い理由は?
くらはし:「昔は今より雪が多くて、流通が止まることもあった。
食べ物が入ってこないときでも、家の食で暮らしを回す必要があった。
その切実さがベースにあると思います。嶺北と嶺南で風土は違うけれど、“たくさんとれた時に保存して、
厳しい季節をどう越すか”という原点は共通しています。
その保存食を作る作業が家庭の味を生んできたんじゃないかと思います。」
——家庭ごとの味、ですか?
くらはし:「はい。福井の人って“自分の家の味”を持っている人が多い印象です。
醤油ひとつでもこだわりがある。段ボールで買って、子どもに仕送りする時に一本入れるとか。
味が家族の記憶としてつながっていく。そのつながりをとても感じる地域だと感じています。」

——季節の行事と食の関係は?
くらはし:「福井には食のカレンダーがあると思っています。
9月は底引き網漁解禁で甘エビが並ぶ。
11月は蟹解禁。半夏生にはサバの丸焼き。
水羊羹は夏に食べてもいいはずなのに、必ず冬に食べる。
この時期はこれを食べるという感覚が強くて、それが共通言語になっている。
食が季節を知らせてくれるんです。夫も、カニの解禁日だけは毎年待ち遠しそうにしています。」
伝統の中にある面白い!を、あなたと一緒に見つけたい
——倉橋さんの料理の中でアレンジがとても多く感じます。伝統食を現代にどうつなげていきたいですか?
くらはし:「そのまま100%同じ形で残すことだけが正解ではないと思っています。
たとえば福井の“麩のからし和え”。角麩の食感はすごく面白いけれど、
若い世代が日常的に使うかというとハードルもある。」

——そこでアレンジを?
くらはし:「素材の魅力は残して、使い方を翻訳する。
酢味噌じゃなくて別の味付けにしてみるとか、カレーの付け合わせにしてみるとか。
乾物だからストックしやすい、という良さもある。
なくなってしまうより、その途中で、まだ見つかっていない面白さを一緒に探したい。
アレンジしながら、今の暮らしに合う形でつないだほうがいいと思っています。」
永平寺の教えに、川の水を柄杓ですくい、満足したらすべて飲み干さず下流のために返しなさい、という言葉がある。
取り尽くさず、必要な分だけいただき、あとは返すという考え方だ。
倉橋さんの言葉からも、いまの感性で受け取り、次へ返していくという循環の姿勢が感じられた。
私とあなたと、食のライブを。
——料理教室で大切にしていることは何でしょうか?
くらはし:「食べるだけだと消費で終わってしまう。でも手を動かすと体験になる。
野菜を切る、和える、火にかける。そういう作業を一緒に行うことで時間の流れがゆっくりになるんです。」

——参加者の変化はありますか?
くらはし:「初対面でも自然と会話が生まれる。まな板の音を聞きながらだと、深い話ができる。
自分の手で作ると、福井の食材が他人事じゃなくなる。身体に入っていく感覚があるなといつも感じてます。」
——料理教室というより…?
くらはし:「ライブですね!
私と食材と、その場にいる人とのライブ。
レシピ通りに再現することより、その場で生まれるものを大切にしたい。」
——完璧にならないこともあるのでは?
くらはし:「完璧じゃない方が、むしろ面白い!
“これ混ぜたら美味しくなったね”っていう瞬間が大事。
毎回できるものも違うし、見た目も違う。それでいいと思っています。」
おままごとで一緒にワクワクする距離感
——参加者との関係性で大切にしていることについて教えてください。
くらはし:「先生と生徒、という関係にしたくないんです。
私は参加者から教えてもらうことも多い。
だから “食の友”という感覚に近いと思っています。」

——食の友?
くらはし:「はい。地域によって食のルーツが違うから、私が知らないこともたくさんある。
“この魚、うちではこう呼ぶよ”みたいな小さな発見が面白い。」
——食の友としてどんな距離感を目指していますか?
くらはし:「おままごと遊びの距離感です(笑)。
正解を押し付けるのではなく、“これやってみよっか”と一緒に試す。
子どもの頃のおままごとのような、あのワクワク感です。
手を動かしていると沈黙も怖くないし、自然に打ち解けていく。」
——最後に、これからのことを教えてください。
くらはし:「いま、小さなチャレンジとしてお店をつくろうとしています。
食材をつくる人、料理をつくる人、そしてこの町を訪れる人。
その三者が、食を真ん中に自然に交われる場所です。
私は“先生”という立場より、一緒に冒険する相方でいたい。
青い鳥を探す子どものように、この先に何があるのか分からない道を、
わくわくしながら歩いていく。
ほんの少しのいたずら心と冒険心で、
心もおなかも満ちていくような。
そんな距離感の場所をつくりたいと思っています。
まだまだ福井には、私も知らないことがたくさんある。
一緒に冒険してくれる人と、たくさん出会いたいです。」
くらはしさんの言葉から、食は完成されたものではなく、行為の中で、静かに更新され続けていくものだと教えられた。
福井の食文化が「保存」や「循環」を軸に育まれてきたように、
くらはしさんの料理もまた、取り尽くさず、翻訳し、次へ手渡す営みの中にある。
その姿勢は、永平寺の教えが息づくこの土地と深く響き合っている。
ZEN AIR EIHEIJIが大切にする“体験を通して土地と向き合う時間”と、くらはしさんの食の在り方は自然につながっている。
ZEN AIR EIHEIJIより

ZEN AIR EIHEIJIでは、くらはしあいさんによる食のワークショップも実施しています。
滞在の中で、福井の食と向き合う時間を体験してみませんか。
詳しくは、お問い合わせください。

